オギロックフェス

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Mr.Childrenにのしかかる重力とは。〈ツアー感想〉

想いが凝縮されたアルバム「重力と呼吸」

2018年10月3日、Mr.Children(以下、ミスチル)の実に19枚目となるオリジナルアルバム「重力と呼吸」が発売となった。収録曲数10曲かつ特典なし1形態のみの発売であり、一見あっさりした印象があるかもしれない。2015年発売の前作「REFLECTION」が全23曲収録(CDは14曲)かつ複数形態での発売であったため、尚更今作のボリューム感はあまりないように思えた。

しかし実際にアルバムを手に取り中身を聴いてみると、そんな思い込みは愚かだった。デビュー25周年を経て、長年共に活動してきたプロデューサーである小林武史さんの手を全く借りずに作られたこのアルバムは、今のミスチルが次のステージへ行くための決意やこの先生きていることへ対しての叫びが表れた作品となった。

勝手な解釈になるが「重力と呼吸」というタイトルも、現代社会において人々は色々な重圧や見えない力に押し潰されそうになるがその中でも呼吸を忘れずに生きよう、というメッセージが込められているのかもしれない。

 

ドームツアー「Against All Gravity」東京ドーム初日公演f:id:ogixxxxfes:20190729121415j:image

さて、ミスチルはオリジナルアルバムを発表した後、それを引っさげたアリーナとスタジアムを回る大規模ツアーを、ここ10年近くの活動ルーティンとして行っている。「[(an imitation) blood orange]」の際はドーム公演の後にアリーナ公演を開催、「REFLECTION」の際はアルバム発売前にアリーナ公演を開催と一部イレギュラーな部分はあるが、アリーナ公演でアルバムの曲を一人一人に届け、スタジアム公演ではそれにエンターテイメント性をプラスしたステージを展開することで、生音でもしっかり伝わるようなライブツアーになっている。

今回の「重力と呼吸」でもアリーナツアー「重力と呼吸」があり、初の台湾公演を経て、年明けにドームツアー「Against All Gravity」が開催された。いまだJ-POPシーンのトップを走るミスチルのチケット応募倍率は相変わらず高かったが、2019年5月19日に行われた「Against All Gravity」東京ドーム公演のチケットを購入することができた。

 

当日の天候は良好で、ドームの中からも外の明るさを確認できるほど早い時間からの開演であった。

ステージには傾きを変えることができるLEDパネルとそこから中央に伸びる花道、その先にセンターステージが用意されていた。ミスチルのライブの特徴でもあるが、大きな会場だろうとステージの装飾はほとんどなくシンプルなデザインのものが多い。ただ、このツアーのステージの花道は電飾仕様となっておりさらにリフターシステムまで搭載していた。そのため、いつも以上に花道を生かした演出がなされていた。

田原さん、中川さん、ジェンさんがオープニングSEを演奏し終え、「Your Song」のイントロが流れると、花道の下から桜井さんが銀吹雪とともに登場しライブは幕を開けた。一曲目から大歓声に包まれたドームは、桜井さんがワンコーラスを歌うたびに拍手が起こっていた。続く「Starting Over」「himawari」とライト層にも広く知られた映画のタイアップ曲が連続したが、しっかりと力強い歌声をドームに響かせていた。

「everybody goes〜秩序のない現代にドロップキック〜」では始まったばかりの令和の時代を斬るような演奏でドームのボルテージを上げた。「HANABI」ではお客さんも一緒になって歌ったり「Sing」では一人一人がその歌に引き込まれており、大ヒットの名曲たちをこうした生の演奏で聴くと改めてその良さを感じることができた。

センターステージに移動した桜井さんがアコギを持つと「名もなき詩」をワンコーラス弾き語りのような形で演奏した。5万人という観衆の真ん中で、アコギ一本だけを持って歌うというとはなかなかできることではないが、それを当たり前のようにやってしまうどころかそれだけで観客を魅了してしまった。このような堂々とした立ち振る舞いをする桜井さんの格好良さに憧れる人も多いのではないだろうか。

今ツアーのセットリストは2005年のアルバム「I♡U」からの選曲も多く「CANDY」もその内の1つだ。そういえば、MCで桜井さんが「一流ミュージシャンが集まるBank Bandもいいけど、全員でボールを追いかける小学生のサッカーチームみたいなミスチルがいい」みたいなことを語っていた。「I♡U」というアルバムは、Bank Band結成後に作られた作品ということもあり、より一層ミスチルだからこそ表現できる音を求めたアルバムになっただろう。今回のアルバム「重力と呼吸」もセルフプロデュース作品ということで、「I♡U」の時と似たよう心境で制作されたのだろうか。

ファンの間でも人気の高い「旅立ちの唄」「ロードムービー」は、二人のサポートキーボードと共に丁寧に演奏され、穏やかな雰囲気で前半を終えた。

後半はアルバム「重力と呼吸」収録の「addiction」からスタート。新曲の中でも特にライブで映えるナンバーであり、ドーム5万人の観衆と声を出しボルテージを高めた。キレのある田原さんのギターが耳に突き刺さる「Dance Dance Dance」でさらに会場をヒートアップさせ、このライブ最大の見せ場である「Monster」が始まった。リフターシステムが稼働し、桜井さん一人が立つ花道がせり上がった。ドームのど真ん中、高台の上から命を削るように叫ぶその姿はまさに日本音楽シーンのモンスターの如し。桜井和寿という男がパフォーマーということを知らしめるかのような圧巻の表現力であった。

平成を代表するヒット曲でスタジアム公演ではすっかりお馴染みの「Tomorrow never knows」「innocent world」も令和の時代にもミスチルのアンセム的ナンバーとしてしっかり輝いていた。オーディエンスも一緒なって歌いドーム全体でメンバーの演奏に応えていた。

本編ラストの「海にて、心は裸になりたがる」では、桜井さんがステージの端から端までを駆け回り、ファンと共に叫びながらお互いの心を解放し合っていた。

アンコールはセンターステージに桜井さんが登場し、「SINGLES」からスタートした。アンコールといえど、しっかり想いの届くような選曲であった。むしろアンコールにこそ、このライブのメッセージが詰まっていたと言っても過言ではない。特に、「Worlds end」の《何に縛られるでもなく 僕らはどこへでも行ける》というフレーズは、25年経ってもなお挑戦と進化を体現し続ける“今”のミスチルだからこそ、より説得力のある詞となっていた。

アンコールラストは、アルバム「重力と呼吸」でもラストナンバーとなっている「皮膚呼吸」が演奏された。MCで今ツアー後にレコーディングを行うと言っていたこともあり、ミスチル自身にとっても、会場のファンにとっても未来への決意と今生きることを強く感じさせる選曲であったと思う。

 

全ての重力に逆らって…

今回のツアータイトルは「Against All Gravity」、直訳すると“全ての重力に逆らう(反抗する)”といった感じだろうか。ここでいう“重力”とは物理的な重力という意味だけでなく、ストレスなど我々が日々感じるマイナスなことや重荷になっていることも含めた意味がある。このタイトルは、ライブのコンセプトを表し、ライブに来てくれた人へのメッセージであることは、一目瞭然だろう。

では、ミスチル自身にとっての“重力”とは一体何なのか。年齢を重ねること、CD売り上げの減退、若手バンドの台頭、情報化する社会、時代の変化…もしかすると我々聴き手の安易な想像では語れないことかもしれない。

ただ、ミスチルが世の中の変化を恐れていないことは目に見えてわかる。例えば、当初はiTunesなどの配信には消極的な印象であったが、25周年のベストアルバムは配信限定でリリースされた。また、USBアルバムの発売、サブスクリプション解禁など、音楽形態が変化していく中で、CD売り上げが減退していることをただ嘆くのではなく、その変化を我が物にしているイメージがある。

メッセージ性のある歌詞やメロディアスな楽曲と変わらないミスチルらしさを持ちながらも、時代と共にこうした変化を見せる姿勢こそが、「Against All Gravity」であり、長年に渡って多くのファンから支持され続ける所以であると、聴き手の1人として強く感じる。